【木戸大聖インタビュー】沖晴との共通点は「“その瞬間をどう生きるか、どう楽しむかを考えている”」。いつもお客さんに心揺さぶれるという舞台挨拶のお話も。<映画『沖晴くんの涙を殺して』>
2026.10.7

末期の乳がんを患い余命1年を宣告された音楽教師の踊場京香が、瀬戸内海の島で出会ったのは、人間の5大感情「喜び・嫌悪・怒り・悲しみ・恐れ」のうち、「喜び」以外を失った高校生・志津川沖晴だった。余命わずかな京香との日々によって、沖晴は少しずつ感情を取り戻し始めるーー。額賀澪による人気小説が、矢崎仁司監督のもと実写映画化された。
京香を広瀬アリスが、沖晴を木戸大聖が演じた映画『沖晴くんの涙を殺して』。美しい島の情景と、儚くも煌びやかな2人の日々を切り取った本作は、今を生きる人々の心を揺さぶることだろう。沖晴を演じた木戸に、喜び以外を失った高校生という役柄について、矢崎監督とのやりとりについて、自身が感情を揺さぶられた瞬間について聞いた。
感情に蓋をしている沖晴を演じる難しさ

■木戸さんが演じたのは、喜び以外の感情を失った志津川沖晴。沖晴をどのような人物だと捉え、どのように演じましたか?
木戸大聖 僕は沖晴を“感情がない”のではなく、ネガティブな感情に蓋をしている青年だと考えました。過去についても、忘れているわけではないけど、同じように蓋をしていると。そう考えていくと、逆に、そのとき目の前で起こっていることに対して敏感であるんだろうなと思った。だから、特に広瀬アリスさん演じる踊場京香と話すこと、そのこと自体も楽しく思えている……楽しさや喜びしか感じられない青年なのかなと思って、現場に入りました。
■ご自身と沖晴の共通点はどこかに感じましたか?
木戸 難しいですよね。そもそも感情がないということは、普通に生きていたらあまりないことなので、似ているところを探すのは難しかったですが、今話したようなところでいうと、僕は旅行に行くときも、あまり計画的なタイプではなくて。その瞬間に起こることやハプニングを楽しもうとする人間なので、“その瞬間をどう生きるか、どう楽しむかを考えている”という意味では沖晴と似ているのかなと思います。
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■そんな沖晴を演じるうえでは制限もあったと思います。特に難しかったことはどのようなことですか?
木戸 順撮りではなかったので、沖晴が今どの感情を取り戻しているか、そのときの心の中は、喜びと何のミックスなのかということを整理しなくてはいけなかったこと。そのうえで、監督とはどのくらいその要素を入れるかという相談をしていきました。例えば、過去の話をするときに悲しみを入れすぎてしまうと「感情をもう取り戻してしまっているじゃないか」となってしまう。そういう意味では、京香に家族の話や津波の話をするときは難しかったですね。それを辛い過去、悲しい出来事として話せないので。
■その話をしているとき、木戸さんのなか、もしくは沖晴のなかでは「悲しい」と思いながら話すのでしょうか? それとも本当に心の底から笑っているのでしょうか?
木戸 普段のお芝居であれば、たぶん過去の辛い話をしているときは、「悲しい」という感情がベースにあって、そのうえで逆のものを出すことでコントラストが生まれる、という表現をすることが多いのですが、今回の場合はそれが通用しない。基本的には主軸として「喜び」という感情がベースにあって、悲しみはこちらでは入れない。そのうえで、見ている人が「悲しそうだな」と思ってくれたらいいなと思って演じました。この役を演じるうえで、感情を取り戻す前なのに「取り戻してしまっているんじゃないの?」と思われないように、ということが一番気をつけていたことなので。基本的には、辛い話や悲しい話をしていても顔は笑っている。それが、見ている人には辛く伝わるようにということを考えていました。
■見ていて、沖晴の悲しさや苦しさが伝わってきました。
木戸 ありがとうございます。最初に言ったように、僕の中では沖晴って感情を失ったわけではなくて、蓋をされているという感覚なんです。その蓋を京香にちょっとずつずらしてもらって、隙間から感情が出てくるみたいなイメージでした。閉まっていた蓋が一気にパンっと開くのではなくて、京香に話しているうちに、ちょっとずつ蓋がずれていく。そのニュアンスが伝わったらいいなと思いながら演じました。

■矢崎仁司監督の演出はいかがでしたか? 監督の演出で印象的なものがあれば教えてください。
木戸 監督は「僕は木戸さんの作る沖晴を信じます」というスタンスで、基本的には任せてくれました。そのなかで、監督にはお客さんの一人として見てもらっていました。さっき話した感情の割合の部分について「今って沖晴はどう見えていますか? 悲しみが強すぎますか?」と聞いて、そのチューニングを監督に委ねたというか感じですね。とはいえ、監督は「こう見えたからこうしたほうがいいよ」ということは言わないんです。「今は悲しみを多く感じました」ということだけを言ってくれる。そこからどうするかは僕に任せてくれていたので、それを聞いて、「じゃあ次は喜びを多くしてみよう」と考えるというやりとりでした。
■信頼のうえで作り上げていった沖晴だったんですね。
木戸 沖晴の性格も生かして、のびのびと、ちょっとスキップするような感覚で、「自分がやるものを信じてもらおう!」というモチベーションでできました。あと監督は海を大事にしていて。夏の海と冬の海を収めたいということで、撮影時期も夏と冬に行った。それくらい海にこだわってやっていたので、結構背景に海があるシーンが多いんじゃないかなと思います。そういうロケーションで撮影したことで、僕自身も「沖晴はこの島でずっと育ってきたんだな」と感じながら演じることができたなと思います。
■監督はどんな方でしたか?
木戸 すごくおっとりした方です。でもこだわりもしっかりあって。真夏の撮影だったんですが、灼熱の中でも絶対にハットとスーツでいらっしゃって。「暑くないんですか?」と聞いたら「これが自分の監督としてのスタイルなんです」と。すごく素敵でした。
アリスさんが演じる京香だったからこそ懐く沖晴が演じられた

■沖晴は高校生。木戸さんは29歳ですが、高校生役を演じるという点での難しさはありましたか?
木戸 今回の共演者の中で一番年齢が近いのが先生役のアリスさんだったのですが、アリスさんのお芝居のおかげで、あまり実年齢のことは気にせずに先生と生徒でいられたなと思います。それよりも自分の年齢を感じたのは合唱の撮影のとき。現地のエキストラの方たちが参加してくれたのですが、彼らは“リアル高校生”たちで。さすがに「自分、デカいな」と思いました。やっぱり10代って線が細かったり、筋肉のつき方が違ったりして。あまり一緒に並びたくなかったです(笑)。
■今、お話にも挙がりましたが、沖晴に感情を取り戻させた踊場京香を演じたのは広瀬アリスさん。「ゆきてかへらぬ」では妹のすずさんとも共演されましたが、今回アリスさんと対峙してみていかがでしたか?
木戸 男女として対峙する役ができてシンプルにうれしかったですし、ストレートにぶつかることができたことはすごくいい経験になりました。妹のすずちゃんとアリスさんは全然タイプは違いますが、2人とも刺激をくれるすごい姉妹なんだなと思いました。


■広瀬アリスさんの現場の居方やお芝居はいかがでしたか?
木戸 現場の居方でいうと、すごく明るくて面白い方なので、現場に入って早々に一気に距離が縮まりました。年上の方ですが、友人のように何でも気楽に話せる存在でした。ただ、京香としてお芝居に入ると、先生として……もしかしたらもはやそこをちょっと超えているかもしれないけど、京香として沖晴を包み込んでくれる感じがあって。そういう意味で、自然と自分の役年齢を下げられたと思うし、沖晴が京香に懐く感じは、アリスさんが演じた京香だったからなのかなと思いました。
■広瀬さんのほうが年齢は上だと言いながら「アリス」と呼んでいらっしゃるところからもお二人の関係性の良さを感じました。「現場に入って早々に距離が縮まった」ともおっしゃっていましたが、そうさせてくれたきっかけは何だったのでしょうか?
木戸 アリスさんチームのスタイリストさんやヘアメイクさんも皆さん明るくオープンな方々で、その輪にスッと入れてくれたことがまず大きかったなと思います。そのうえで、灼熱だったり、過酷なシチュエーションでの撮影だったので、それを一緒に乗り越えたことも大きくて。「どう演じていくか」よりも「どう乗り切るか」という感じで。今思えば、わちゃわちゃと現場を過ごしていたことで、あの過酷なシチュエーションも乗り越えられたのかなと思います。

■過酷な現場だったということですが、それはやはり暑さですか? それ以外にも何か大変なことが?
木戸 沖晴を演じるということももちろん大変でしたが、やっぱり暑さが一番でしたね。撮影は江田島という島で行ったのですが、2人が最初に出会うシーンの防波堤は屋根が一つもなくて、みんな太陽の光をくらうしかないという場所で。しかも自分は、そこから水に飛び込まなくてはいけなかった。飛び込むこと自体はよかったんですが、大変だったのは水から笑顔で出てくること。人間の体って簡単に浮いてきちゃうので、重りをいっぱいつけたんですが、それでも浮いてきてしまって。なので、水中の重たい石につかまって数秒待ってから浮かび上がるというやり方で撮影をしていました。
■木戸さんはそんな映画『沖晴くんの涙を殺して』からどのようなメッセージを受け取りましたか?
木戸 死が近くに見えている人と、感情を失ってどう生きていいかわからない青年。この2人のやり取りによって生きるということの方向性みたいなものを見つけていく作品だと思いました。「感情を失う」というところはファンタジックで、身近に感じにくいかもしれませんが、京香のセリフにもあるように、過去と未来があるから今を生きられて、そして未来を考えられる。見てくれる方には、そういうところが伝わってくれたらいいなと思います。今の時代って先を見すぎてしまうことも多いだろうし、不安に感じることもあると思いますが、未来は今の生き方によって一瞬で変わる。ベクトルが一ミリ変わるだけでも違う未来が待っている。僕はこの作品からそういうことを感じましたし、皆さんにもそれぞれの受け取り方で何かが伝わったらいいなと思います。
心が揺さぶられるのは舞台挨拶「この先もこの景色を見続けていたい」


■感情と向き合う沖晴を演じた木戸さん。サイト名の「Emo!miu」にちなんで、最近心を揺さぶられたことを教えてください。
木戸 最近ではないんですが、舞台挨拶はいつも心を揺さぶられます。俳優という仕事は、直接お客さんと会う機会があまりないので舞台挨拶で皆さんにお会いできるのがすごくうれしくて。ボードやうちわが見えるのもうれしいですし、映画上映後の舞台挨拶で、ちょっと目を赤くされていたりすると「伝わったのかな」と感じてうれしくなったり。直接お客さんの反応や言葉を感じられるとすごくグッときます。だから登壇する瞬間はすごくワクワクするし、降壇するときには寂しさもあって。「この先もこの仕事をやり続けて、この景色を見続けていたいな」と思いますね。
■降壇するときは寂しくなるんですね。
木戸 寂しいです。少しでも舞台に長くいられるように、ちょっとお辞儀を長くしたりします(笑)。客席の後ろから登場したり、客席内を通って帰ったりするのも好きで。皆さんがどんな表情をされているのか見たいんです。時間を割いて、映画を見る以外に自分たちの姿を直接見に来てくださった皆さんに、『来て良かったな』と思ってもらえる時間になってほしいので。自分もお客さんも楽しい時間が少しでも長くなればいいなと常に思っています。
■では最後に。今年の12月で30歳を迎えますが、20代のうちにやっておきたいことを教えてください。
木戸 海外に行きたいです。今年、お仕事でイタリアに行ったのですが、それは人生で初めてのイタリアで。すごく刺激を受けたので、また違う国に行けたらいいなと思います。
■ありがとうございました!

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木戸 大聖
1996年12月10日生まれ。福岡県出身。
2017年、ドラマ『僕たちがやりました』に出演し、俳優デビュー。
近年の主な出演映画に、『ゆきてかへらぬ』『パリピ孔明 THE MOVIE』『WIND BREAKER / ウィンドブレイカー』『モブ子の恋』(主演)などがある。また、10月放送のドラマ「救命病棟24時 第6シリーズ」への出演も決まっている。
[Instagram] @taisei_kido_
Photo:Tamami Yanase、Text:小林千絵
―INFORMATION―
【映画『沖晴くんの涙を殺して』】
出演:広瀬アリス
木戸大聖 / 満島真之介 / 北乃きい 戸田菜穂 根岸季衣
主題歌:TOMORROW X TOGETHER 「Silence」 (℗ 2026 BIGHIT MUSIC)
劇中曲;詩・谷川俊太郎 作曲:尾崎世界観(クリープハイプ) 「生きる」
監督:矢崎仁司
原作:額賀澪 『沖晴くんの涙を殺して』(双葉文庫)
脚本:朝西真砂
製作:「沖晴くんの涙を殺して」製作委員会
[HP] https://okiharu-movie.jp/
©2026 額賀澪/双葉社「沖晴くんの涙を殺して」製作委員会






































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